東京メンタルヘルス・アカデミー
介護従事者向け(高齢者の心のケア&ホームヘルパーコミュニケーション向上研修)

高齢者の心のケア

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 高齢者へのメンタルケア

 明治時代の人間の寿命はわずか40歳そこそこでしたが、今やそれは、当時の約2倍になりました。クオンティティ・オブ・ライフ(延命)、つまり「長生き」の傾向はますます高まりつつあり、西暦2000年には高齢期といわれる65歳以上の高齢人口が17%を占め、21世紀の半ばには3割を占めると言われています。

 また、高齢人口の約11%にあたる200万人が寝たきりや痴呆、虚弱となり,介護や支援が必要になると予想されています。
 しかし、このことは新たな意味で日本に福祉国家の実現を迫っています。いわば物づくりから人づくりへの転換です。この転換によって、高齢者の方々も救われ、それを支える青壮年層も大きな労働市場を得ることができます。

 私たちは特に高齢者の方々に対してメンタルヘルスケアのサービスを実施しています。そしてまた、訪問看護の方や介護福祉士、そしてホームヘルパーの方々も心のケアの実践ができるよう研修等を通じ支援させてもらっております。

 高齢者特有の心理

 高齢者の心理的特性には死に対する不安と恐怖があります。高齢者にとって死は間近なもの、引き受けなければならないものとしての心構えが必要になってきます。死を受け入れることができている人にとっては、それほど辛いことではないでしょうが、その準備ができていない人や障害のある人にとっては死は特に不安と恐怖の対象になります。

 さらに、孤独の問題があります。老人神話も形成されるように高齢者は役割を喪失し、役立たずと扱われがちです。また、精神的居場所もなくなり、どこかに押しやられてしまうのではないかと思ってしまいます。特に病気がちであったり、寝たきりの場合は、そのような心境に陥りやすくなります。
家族や親戚、友人や恋愛関係などの絆が弱くなり、独り暮らしをしている場合は特に孤独感を強めてしまいます。

 また、過去への執着があります。特に現状に不満があったり、寂しさや孤独感、不快感を感じている場合は自分の過去を懐かしがります。現在の不幸な生活を否定し、幸福だったと思われる過去の記憶に生きようとするのです。これがひどくなると過去への執着性を帯び、「今、ここで」の生活ができなくなり、対人関係の適応困難を起こしたりします。

 障害をもつ高齢者への対応のしかた

 私たちが考慮すべきことは、心身にハンディキャップを有する高齢者は私たちとは物の感じ方や考え方が異なるということです。そこで大事なことは、そういった心身上の欠陥や機能の低下をそのまま受け止め、共感的に理解することなのです。たとえば、難聴だったり白内障で目がよく見えなかったり、入れ歯が合わなかったり、記憶力がひどく低下していたり、まったくそれが喪失されてしまったり、わけのわからない言動を示したりするなど、高齢者のなかには私たちが考えられないような苦労をしていることがあります。

 そうするとまともな対応ができなくなります。また人の話をきいたり、話をすることが億劫になったりします。耳が遠いと、特に高い音や大きな声、ひそひそ話などは辛く感じます。そのためついつい自分の存在感、役割意識に乏しくなり、邪魔もの扱いにされているのではないか、無視されたり見捨てられてしまうのではないかと思いがちになったりします。

 高齢者のケアをしたり援助している人たちは、高齢者の心身の状態をまず素直に受けとめる必要があります。つまり「〇〇さんは寂しさを感じるときもあるでしょうね」とか「昔とくらべて、身体が動かなくなって情けなく思うこともあるのではないでしょうか」、「役立たずでみんなに悪いなぁなんて思ってしまうこともありますか」などの言葉は、障害を持つ高齢者の気持ちを代弁するものです。
 
 特に痴呆症の高齢者はまわりのみんなにけむたがられ、厄介者扱いされがちです。また寝たきりになってしまった高齢者や慢性疾患をかかえ病床についている高齢者は、自分の存在それ自体を否定的に考えてしまいます。しかし、一方で厄介者になることで存在を表明し、甘えることによって関係を維持していこうとする心理機制も働きます。

 おとなしく寝ていることだけを求められたり、おむつを交換してもらったりすることは、その高齢者にとって幼児期の体験をよみがえらせ、退行や依存心を強化させることにつながる場合もあります。ケアや援助をする人が過剰な保護やサービスをしてしまうと、高齢者をいっそう退行させ依存的にさせることになります。したがって、自分でできることは自分でするよ う高齢者をサポートすることが大切です。

 ここに高齢者との心の対話や心のサポートの必要性があるのです。もしそのような心のケアがなかったとしたら、彼らの多くは「無視された」「見捨てられた」と思ってしまうでしょう。
 高齢者の心理や障害をもつ高齢者の看護や介護をとおして、私たちは自分に経験のないさまざまなことを学ぶことができます。看護や介護を通して、相手の思いに耳を傾け、自分の心にも耳を傾けるのです。


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