認知行動療法は現在広く注目され、活用されているアプローチです。
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認知行動療法
集団認知行動療法(CBGT)

   認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)とは

 アーロン・ベックによって提唱された、構造化された心理療法に「認知療法」があります。この心理療法は、人間の気分がその人独特の認知 ( ものごとのとらえ方、考え方 ) によって影響を受けるという理論に基づいて、その認知のあり方をクライエントと共に検討・検証し、問題行動の修正および問題解決を行って気分を改善させることを主な目的としています。

 「行動療法」は、日本においては行動分析などで日本にも 70 年代には導入されていましたが、その理論の難しさや機械的な印象が拭えなかった点、また観察が重要視されたものの一般生活では制御できない要因が多すぎ、病院や障害児教育などにおいて特化して活用されてきました。

 認知療法と行動療法が持つ理論が平行して活用される中で、認知療法と行動療法は理論的に、また多くの認知的アプローチと行動的アプローチが活用されるようになるなど統合が進み、現在は「認知行動療法 (CBT) 」として確立されています。

 実証されたアプローチをクライエントに提供しようとするエビデンス・ベースド (evidence based) ・アプローチが注目される中、認知行動療法は様々な問題に対しての効果が実証されてきています。

   認知行動療法(CBT)の基礎理論

 以下に、認知行動療法の基本的な理論をいくつか説明します。

1:認知的機能主義
 
人間の心を科学する「心理学」には、その見る視点によって様々な人間理解(心、行動など)をしていこうとする理論や立場があります。認知的機能主義もその一つです。これは人間の行動は、外界からの「刺激」に対する反応としての「行動」の間に、『認知(考え)』があるという想定を新たに導入し、外界から刺激を受けたとき、それをどのようにその刺激を受けた人が捉えるか(考えるか)によってその人の行動が様々に影響を受けると考える立場なのです。

認知的機能主義

2:情報処理モデル
  これは、「心理的苦痛を感じている間、人の考えはより硬直化して歪んだものとなりやすく、判断はより一般化されて絶対的になりやすく、自分や他人、または世界に対する基本的な信念は固定化されやすい」( Weishaar,1996 )というものです。よく耳にする「白黒思考」「べき思考」といった考えのくせは、調子が悪いときに強く出てくるものですよ、ということを示してもいるのです。以下に、いくつかのくせの例を書いておきます。

[考えのくせの例]

恣意的推論
Arbitrary inference

根拠もなく、他人の心を読みすぎたり、将来のことを先読みしすぎたりして、事実から飛躍した悲観的な結論を出してしまう。

分極化(白黒)思考
Dichotomous thinking

極端な考えをだけで、バランスとの取れた考えを認めない。
All or nothing の考え方。

マイナス化思考
Disqualifying the positive

良い出来事や日常の何でもない出来事を、悪い出来事だと解釈する。

感情的決めつけ
Emotional reasoning

自分の「感情」を根拠に状況判断する。うつ状態では否定的な感情に支配され、否定的な結論ばかり出てしまう。

自己関連づけ
Personalization

よくない出来事を、根拠なく自分のせいとする考え方。

べき思考
Should statements

過度に「〜しなくてはいけない、〜すべき」と考え、自分を追い込む考え方。

( 誤った ) レッテル貼り
(mis)labeling

歪んだ認知によって、否定的な自己イメージを作りあげる。
→「遅刻した=自分はだめな人間だ」

誇大視・微小視
Magnification/minimization

短所や失敗を拡大解釈する一方、長所や成功を過小評価してしまう。

3:スキーマ(中核信念)理論
 前述した認知的機能主義は「人間の気分は、その人が状況をどう捉えるかによって決まる」という仮説です。スキーマ理論は、人がその状況においてなぜそのような考えを持つのか、に焦点を当てます。考えは「このような考えを持とう」と決めてから出てくるのではなく、勝手に自動的に出てきます。ゆえに、この自動的に出てくる考えを『自動思考』と呼んでいます。そして、自動思考をよく観察してみると、同じような考えが出てきていることに気がつくかもしれません。

 例えば、 A さんは仕事で失敗したときには「やっぱり私はダメなんだ・・・」といった考えが自動的に出てきます。一方 A さんは、成功して人から褒められたときには、「どうせ次はダメになるに違いない・・・」といった考えが出てきてしまっていることに気がつきました。この 2 つの異なった状況において、なぜ似た考えが出てくるのかを説明しているのが、スキーマ理論です。

 この A さんの場合には、自動思考の奥に、「私はダメな人間である」という強い否定的なスキーマ(中核信念)があり、このスキーマ(信念)が活性化しているとどのような状況に自分がいたとしても、自分を「ダメ」な存在としてみなすように考えてしまうのです。しばしばこのスキーマ(中核信念)は、「自分(自分ってどんな人)」「人(世の中の人ってどんな人)」「社会(社会とはどのようなもの)」に対しての自らの強い考えを示しています。

 その他、スキーマ理論においては各人の思い込みのようなルール、といった信念ほど強いものではないものも仮定しています。

4:思考・感情・行動・身体的反応・環境の相互作用
 
認知行動療法とは、誰もが持っている考えや行動に焦点を当て、困った問題と思っている事柄や状況に対して対応をしていくアプローチです。

思考・感情・行動・身体的反応・環境の相互作用

 認知行動療法では、左の図のように人を捉えます。ある状況において浮かんでくる考え、その状況でとっている行動、その時の体の感覚、そしてその状況における気分(感情)です。

 どれか一つが変わるだけでも、他のものも変わっていきます。同じ状況でも疲れている時と元気な時には違った考えが出てくるものですし、いつもと違った行動をとってみることで気分が変わるということを体験したこともあるのではないでしょうか。

 自分の中の感覚の相互作用「個人内相互作用」と自分と外界の関係「社会的相互作用」の二つの相互作用に注目しているのです。


   認知行動療法(CBT)のアプローチ

 以上のような基礎理論を活用し、心理療法として用いられる認知行動療法( CBT )においては、クライエントが問題行動にいたるまでの『体験過程』(プロセス)をどのようなモデルで捉えているのか、認知行動療法( CBT )の基本モデルを説明していきます。

 B さんの現在の外的・内的状況を認知行動療法の理論を通して見てみましょう。 B さんは明日のプレゼンテーションを控え、準備ができていません。そのことが頭から離れず、気分も悪くなっています。準備をすればいいとは思いながらも、途方にくれてふさぎこむ一方で、頭痛までしてきたようです。       

備をすればいいとは思いながらも、途方にくれてふさぎこむ一方で、頭痛までしてきたようです。

B さんの現在の外的・内的状況


   具体的な治療プロセスの一例(認知と行動の変容:考え方や行動をうまく変える方法)

 認知行動療法には、様々な技法がありますが、ここではいくつか代表的なものを紹介します。

  1.認知再構成法

  • 自動思考(勝手に出てくる考え)の存在を理解します
  • 認知の感情・行動への影響や相互作用を確認します
  • 自動思考のパターン(考え方のくせ)の存在を理解します
  • 自動思考をモニターする
  • 自動思考を検討する くせの置き換え、付き合い方、新しい解決方法、外在化

      前述の B さんは、後日受けたカウンセリングの中で、自動思考「明日までには不可能だ」という考えは、正しいけれども考え続けることにはメリットがないことを理解しました。そして、「自分には能力がない」という考えがしばしば自分の中に生じていることに気がつき、その考えが出てくると自分の状態が悪くなっていく一方だということもわかるようになってきました。時間をかけてカウンセラーと「自分には能力がない」という考えが正しいのか、間違っているのかを今までの経験、やり遂げてきたこと等を詳しく振り返ることで確認してきました。その結果として、 B さんは、「調子が少しでも悪くなってくると、ついつい私は無力で何もできない人間なんだというように考えてしまいがちなんですよね」と言い、「その考えが必ずしも正しくないことがわかりました。それが自分の中で癖のようになってしまっていたんですね。そのくせが出てきても、まずは一呼吸置いて、その考えが必ずしも正しくないことを思い出せるようにしたいと思います」と言っていました。

  2. 行動の変容

 前述のような検討の中で、 B さんは今回のプレゼンテーションは指示されたときから「一人ではできない」ということが分かっていた、ということも改めて確認することができました。そこで、 B さんとカウンセラーは、必要なときには溜め込みすぎずに、必要なことを言う練習、アサーティブ・トレーニング(自己主張訓練)も行い、今後の同じような状況にも備えることができました。

 このように、認知行動療法ではカウンセラーは様々な技法を用いながら、クライエントが解決していきたいことに取り組んでいく作業をサポートしていくのです。


   認知行動療法(CBT)のアプローチの特徴

 認知行動療法では、カウンセラーとクライエントがチームとなって、『協同作業』によって問題解決を図っていきます。このアプローチは「協同的実証主義」と呼ばれ、クライエントとカウンセラーは共に問題解決に向けて協力し合う、対等なパートナーであり、二人でその問題や症状がどのようにして起こり、維持されているのかのメカニズムや、「考えのくせ」を解明していきます。そして、協同して解決を図り、絶えず進歩状況を確認しながら安心して進めていくものです。

 
二者関係における従来のカウンセリング CBT の協同作業による問題解決
二者関係における従来のカウンセリング CBT の協同作業による問題解決

   進化する認知行動療法(CBT)

  認知行動療法は、 1990 年代までは「考え方を 変える 」ことに力を注いできましたが、 2000 年に入って「考え方のくせと 付き合う・受容する 」というスタンスに広がりを見せてきています。変えることに力を尽くすことよりも、それがどのようにしてあるのか、それを理解し、受容し、ゆるしていくというアプローチです。このような新しい流れが「マインドフルネス」と言う言葉で検討されてもいます。この「マインドフルネス」は、この数年、認知療法学会その他においても、とてもホットな言葉として注目を集めています。

注:『マインドフルネス』の定義としては「気づきと注意、今ここへの注目、知覚しうる刺激一つ一つに対する感受性、自分と 外的世界とのつながりに対する気づき、そして現在経験している「マインドレス」な強迫観念からの逃避衝動がないことなどの要素が含まれる」といったものがあります(少し分かりにくい?要は、心を広く、様々なものとのつながりを感じていられる状態のこと、です)。 マインドフルネスは、今の自分への気づきを深めるものとして、東洋的な思想として西洋に受け入れられてきたものでもあります。

(『マインドフルネス&アクセプタンス』 S.C. ヘイズ、 M.M. リネハン他編著 監修=春木豊 ブレーン出版、 2005  参照)

 認知行動療法はうつ病に対してのアプローチから発展してきたのですが、現在は、不安障害、 PTSD やパニック障害、幻聴、強迫性障害、統合失調症患者への社会的リハビリテーション場面などにおいて活用され、効果を挙げてきています。

 日本においても、現在その有効性、エビデンスが確認されつつあり、医療現場はもちろんのこと、産業、教育など様々な分野で認知行動療法( CBT )が行なわれています。

 東京メンタルヘルス・カウンセリングセンターに所属するカウンセラーも、認知行動療法について継続的に学会発表を続け、研究を続けながら相談業務臨床に携わっております。
 
 
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